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習近平「ブロックチェーンとデジタル人民元」国家戦略の本気度
習近平は10月24日の中共中央政治局会議でブロックチェーンを国家戦略として取り込めと発言。中国人民銀行はデジタル人民元に意欲的だ。
実現可能性を中国の本気度と内情から読み解く。
中共中央政治局学習会での習近平の驚くべき発言
10月24日、中国共産党中央委員会(中共中央)政治局第十八回集団学習という会議で、「ブロックチェーンを核心的技術の自主的なイノベーションの突破口と位置づけ、ブロックチェーン技術と産業イノベーション発展の推進を加速させよ」と述べた。
中略
10月28日になると、中国人民銀行科技司の李偉司長は、上海で開催された「中国金融四十人フォーラム」が推し進める第一回の「バンド金融サミット」で、「ブロックチェーン技術はデジタル・イノベーション発展を推進するに当たって絶大な潜在力を持っている」と語った。また民間銀行に対しても、金融事業へのブロックチェーン導入を強化するよう促した。
同フォーラムには中国国際経済交流センターの副理事長を務める黄奇帆が出席しており、ブロックチェーンを熱く語り「リブラが成功するとは思えない。中国人民銀行が全世界で最初にデジタル貨幣を使うことになるかもしれない:6大注意点」という見出しで大きく報道された。
中略
彼のスピーチのテーマは「デジタル化リモデリングのグローバル金融エコロジー」。
その中で彼は以下のような爆弾発言をした。
――デジタル化は天地をひっくり返すような作用をする可能性を秘めている。
将来的には、定量的投資(決められた規則・モデルに沿って投資する)やロボアドバイザー投資(ロボットが自動的に設定に従って投資をしてくれる)、人工知能定価(AIで商品・中古品の価格を決める)あるいは「保険で賠償する場合の金額計算をAIで決める」とか金融クラウドサービス、「証拠・証明書をブロックチェーンに保存する」など、新金融業態が絶えず進化し、金融業界は、これまでになかった全く新しい時代に突入していく。
それを中国がリードしていくことになる。
黄奇帆が語った6大注目点は、以下の6つである。
- ブロックチェーンはDNA技術のように、様々なレベルで基礎ステータスの底上げに役立つ。
- SWIFTとCHIPSは技術が古くて、効率も低い。国際送金に何日もかかるし、大規模な送金に対応できない、かつ手数料が高いという問題がある。したがって世界にはブロックチェーンをベースにする新型清算ネットワークが必要。
- ビットコインやLibra(Facebookの仮想通貨)が成功するとは思えない。貨幣の価値は信用から生まれる。信用のない仮想通貨は、根のない草に等しい。中国中央銀行はすでにデジタル通貨を5-6年にわたって研究してきた。したがって最初にデジタル通貨を発行する銀行になるかもしれない。
- 通貨のデジタル化は世界の貨幣事情を変える。昔の貨幣は金本位制、その後は国家の信用に基づくことになった。アメリカが軍事と経済の実力により、石油と国際貿易のドル決済を独占し、実質的な世界通貨となったが、それがデジタル通貨によって打破される。
- 個人の支払い方法を革新させる。中国のデジタル支払い(キャッシュレス)は世界トップクラスで、2018年の支払い金額が39兆ドルであるのに対して、アメリカは1800億ドルでしかない。ブロックチェーンは支払い機構と銀行を繋げるネットワークとなり、クロスボーダーの支払いをより簡単かつ迅速化できる。
- デジタル化は産業チェーンの効率を上げることができる。5Gのモノのインターネットに融合できて、消費者向けだけではなく、産業向けのインターネットを構築し、効率を大幅に上げることができる。
結論
結論的に言えるのは、中国という国家にとってブロックチェーンとデジタル通貨を採用することは、現金と違って履歴が残るために改ざんを防ぎ、国家の統一的な管理が容易になるというメリットをもたらす。
これにより国内的にはマネーロンダリングや詐欺、脱税などを防ぐことができる。金の流れまで記録できるのだから、人民への監視はさらに強まるだろう。
国外的には、人民元のグローバル化、延いては米ドル覇権の打破に繋がると習近平政権は考えているにちがいない。
デジタル通貨に民間が先に手を付ける前に、国家が握ってしまった方が得策だと判断したのは確かだ。
これを実行することにより果たして人民元が米ドル覇権を打破できるのか否か。
今後注目していきたい。
なお、フェイスブックのザッカーバーグCEOは10月23日、米議会下院金融サービス委員会の公聴会で仮想通貨「リブラ」の発行を阻止しようとする米議会に「アメリカは仮想通貨で中国に敗退する」と抗議した。
習近平がブロックチェーンに関する国家戦略を発表したのはその翌日の10月24日である。ザッカーバーグの警鐘は当たっているのだろうか。
2019年11月5日 ニューズウィーク日本版より